この日、町はいつもと変わらずにぎわっていた
違っていたのは 雪の降るクリスマスという事だけ
高野(たかの)省吾(しょうご)は大きなクリスマスツリーの下にあるベンチに座っている
どれくらい座っているのかわからないが、暗い夜空に星が輝いていた。ふと時計をみると針は8時を指している
俺は待っている まだこない誰かを そう
雪の降る町で
ホワイトクリスマス 〜ゆり Side〜
事の始まりは12月の初め 夜10時半頃
私、神野ゆりは迷っていた。この思いを伝えるべきか否か…
省吾とは幼馴染でよく一緒に遊んでいた。昔は気兼ねなく遊べたのに今は違う
私達は同じ学校に通っている。でも、省吾は部活の朝練があるし、私は学費のためにバイトをしている。そんな訳で会う事も連絡する事も、ほとんどなくなってしまっていた
でも、変わらないものがあった それは…
省吾の事が好きって気持ち
今も省吾の事を考えている。省吾と一緒に遊んだ思い出。小学生の頃言ったカワイイ約束。同じ高校に受かった時の喜び・・・
ピロリロリロン…
携帯の音が部屋に響いた。この着信音は…省吾
私はすぐさま携帯をとった。残念ながら電話じゃなくてメールだったけどそれでも嬉しかった 省吾と連絡取るのは何ヶ月ぶりだろう 最後に連絡をとったのが4月の部活が始まる前だから・・ っとそんな事を考えている場合じゃない 早くメールを見なきゃ
“ゆり、久しぶり。突然なんだけどさ。25日暇か?
暇なら少し会わないか。今まで会ってなかったし、色々話したい事もあるし
返信待ってる 省吾”
うっそ〜〜〜〜!! 省吾からこんなメール来るなんて・・しかもクリスマスに私を誘うって事は もしかして・・・
いかんいかん そんな訳があるわけない だって、昔から仲良かったんだから、一緒に遊びに行こうってだけだろうし
でも、ドラマとかだとイキナリ告白っていうのもあるよね。って事は〜 もしかしたら“俺、ゆりの事が・・”て、事になっちゃったりして・・・キャー
あ!返事返事
“うん、久しぶり☆まさか省吾から誘ってくるなんて思わなかったよ(笑)25日? ぜんぜんOKだよ 時間どうしよっか。夕方にする?昼にする?
私は夕方がいいなぁ〜 ゆり”
送信っと
ピッ
はぁ〜。返事まだかな〜
ピロリロリロン…
“んー。夕方でにするか 時間は5時ってのどうだ?
あと、クリスマスなんだしプレゼント持参しろよ(笑”
よし!これならそのまま夜に…なんてね
プレゼントかぁ。何にしよう まぁ、まだ時間あるしゆっくり考えようっと
“5時ね 了解♪
プレゼント?良い物選んでおくから、そっちも良い物準備してよ〜”
ピッ
ん〜。プレゼントどうしよっかな〜
ピロリロリロン…
“分かってるって それじゃ、またな おやすみ”
何くれるんだろう〜 もしかして・・愛? なんちゃって
“またね〜 おやすみ☆”
ピッ
にしても、ビックリしたなぁ 省吾からメール来るなんて。
クリスマスかぁ プレゼントどうしよ・・ま、時間あるし大丈夫かな
おやすみ 省吾
私はそのままベッドにもぐり 眠りについた
12月23日
私は近所のデパートに来ている。もちろん省吾のクリスマスプレゼントを買うため
でも、なかなか良いのが見つからない
仕方がないので 先に親にあげるプレゼントを選び行った
「去年はワイングラスをあげたから、今年はお皿にしようかな〜・・」
なんて事を考えながら、食器コーナーを見てみると かわいい小鳥が2羽描かれているプレートがあった
「あ、かわいい〜」
と、言って そのままレジで購入。これで親のプレゼントはOKである。私は再び省吾のプレゼントを選びに戻った
「そうだっ!コップにしよう コップならベターだし、おそろいのやつにできる うん、ペアのコップにしよ」
と、いうことでペアのコップ探しを始めた。10分ほど探して、2つ併せるとハートマークが浮かび上がる赤と青のカップを発見。迷わずそのまま購入し帰宅した
「これで準備完了 あとは25日を待つだけ♪ あ〜ぁ 早くクリスマスにならないかな〜(ため息」
私はうきうき気分でベッドに沈んだ…
このときの私は、無事にプレゼントを渡せると思ってた
12月24日夜
私はバイト疲れで、くたくたになって帰宅した
今日はクリスマスだけあって忙しかったなぁ。ま、明日は省吾とのデートだから、これくらい何ともないけど♪
ピロリロリロン…
あ、省吾からだ
“よう
明日の事だけど、場所はデパート前のでっかいツリーの下でいいか?”
何で待ち合わせなんだろ?一緒に行けばいいのに…。ま、いっか
“うん、いいよ〜
明日が楽しみだね”
ピッ
明日の服どうしよっかなぁ〜。コートは水色で、マフラーは白でいいかな……うん、これにしよっ!
さぁ、これで明日の準備はOK 後は夕方になるのを待つだけかぁ
もう11時、早く寝なきゃ・・。と、思いつつも色々あったわけで、眠りについたのは2時を過ぎていた
そして運命の12月25日午後
外は雪が降っていた
私はやや遅い昼食を終え、時計を見ると2時だったのでお風呂に入る事にした。私はゆっくりとシャワーを浴び湯船に浸かってから上がった。ドライヤーで髪を乾かし、セットして着替えた。時計を見ると針は2時をさしていた…
「うそ・・シャワーする前も2時だったのに・・。もしかして・・・・」
私は秒針を見た。すると、思ったとおり動いていない。携帯を見ると、既に4時半を回っていた・・
とにかく急いで支度をし、省吾へのプレゼントを持って家を出た。ここから待ち合わせ場所まで歩いて40分はかかる。だが走れば25分ほどでいける距離だった。
私はとにかく全速力で待ち合わせ場所に向かった
長い交差点の前まで来たので時計を見ると、4時50分だった
「これなら間に合いそう」
信号が点滅始めたので私は急いで渡ろうとした
その時だった。交差点をものすごいスピードで曲ってきた乗用車が私の視界に入ったのは・・・
キキィーーッ… ドンッ…
と、いう音がした所で私の意識はなくなった
気がつくと病室のベッドの上にいた。少し頭がボーッとする。看護士を呼び、私が何故ここにいるのか聞いた。私は車に跳ねられた。と、いうか当たった。車はそのまま走り去ったらしい。その時に転倒し意識を失った後、近くにいた人が救急車を呼びこの病院に運ばれた。診断結果は軽い脳震盪だけで今すぐにでも退院できるという事だ。
私は病院の人にお礼を言い、すぐに待ち合わせ場所に向かった。携帯を見ると22時を過ぎている。さすがに省吾は帰っているだろう。いや、怒っているかもしれない。もう会ってくれないかもしれない・・。
でも私は走った。一生懸命走った。とにかく私には待ち合わせ場所に行く事しか頭になかった
もう10時を回っているという事で、町はカップルで溢れていた。省吾が1人でこんな所にいるわけないな・・・と、思いつつもツリーの前に着いた。そこには見慣れた男性がベンチに座っていた…
「省吾っ!!」
私は叫んだ。省吾はこちらを向き
「よう。待ちくたびれたぞ」
と言い、微笑んで手を振ってくれた。頭には雪が積もっている。省吾の前に立ち
「もしかして、5時からずっとここに?」
と、尋ねると 省吾は軽くうなずき
「当然だろ。約束したんだから、5時間ずーっと待ちっぱなし。風邪引いたらお前のせいだからな」
と、笑いながら言った
「ごめんね。省吾・・・」
私は涙を浮かべ、そう言った。そう言う事しかできなかった。
「・・・ったく」
省吾はそう言い立ち上がると、私を引き寄せキスをした
「んっ・・」
初めてのキスは少しすっぱく、ひんやりしていた
省吾の顔が離れ
「俺はゆりの事が好きだ。昔からそう思ってる ゆりはどうだ?」
いきなり省吾に告白された。あまりにも突然の事なので頭の中は真っ白になっていた
「わ、、私も省吾の事が好き! 小さい頃からずっと・・ずっと大好き!!」
何とか出た言葉がこれだった。胸が熱くなり、自分の脈を打ってるのがわかる。顔も赤くなっている
「じゃあ、俺と付き合ってくれるか?」
省吾が問う。私は赤くなった顔に涙を浮かべたまま答えた
「もちろん」
私たちはもう一度キスをした
再び雪が降り始めた
空に浮かぶ月が、年に一度のクリスマスを祝福するかのように町を照らしている