この日、町はいつもと変わらずにぎわっていた

 違っていたのは 雪の降るクリスマスという事だけ



俺、高野省吾は大きなクリスマスツリーの下にあるベンチに座っている

どれくらい座っているのかわからないが、暗い夜空に星が輝いていた。ふと時計をみたら8時を過ぎていた

 自分は待っている 中々来ない好きな人を そう 



雪の降る町で





  ホワイトクリスマス 〜省吾 Side〜





事の始まりは12月の初め 夜11時頃



 俺は浮かれていた。何故かというと、ゆりをデートに誘えたからだ。ゆりとは幼馴染で高校に上がる前までは、よく遊んでいた。

だが、俺は部活の朝練があり、ゆりは家の事情でバイトをしている。そんな訳で会う事も連絡する事も、ほとんどなくなってしまっていた

 でも、昔から変わらないものがある それは…

ゆりを思う気持ち

 そんなわけで、クリスマスにデートに誘ってみた。俺はこの日に告白しようと思う



他の男ゆりをとられたくないから・・



 とりあえず今日は寝よう。俺は電気を消してベッドに潜りこんだ







12月24日夕刻



 俺はデパートでペアの携帯ストラップを買った。もちろん、ゆりへのクリスマスプレゼントである。本当はペアの指輪とかをあげたかったんだが、付き合う前にそれは不味いだろうと思いやめた

 帰り際、ゆりがバイトしているファミレスをのぞいてみた。(外からだが)やはりイヴなので客で一杯だ。ゆりが忙しそうに料理を運んでいる。声をかけるのも悪いと思い、明日の待ち合わせ場所を決めに行った

 噴水の前。公園。カフェ…

どこも、ぱっとしない。他に良い所はないだろうか。もっと・・こう・・何ていうか…。

 気がつくと俺はデパートの前に来ていた。大きなクリスマスツリーのイルミネーションが輝いている。俺はすぐさまツリーの下に行った。ここからだと大通りを見渡せて良い感じだった。俺は迷わずここを待ち合わせ場所にする事にした。



 夜、ゆりに場所のメールをし、買ってきたプレゼントを机の上に置いて眠りについた







そして運命の12月25日午後



 外は雪が降っていた。

俺は支度をし、3時頃に家を出た。途中、道に迷っている御婆さんが居たので道案内をしてあげた

無事に送り届け、時計を見ると45分になっていた。このままでは間に合わないので、俺は走った

走っていると、遠くの方に俺と同じように走っている女性が居た

「ゆりっ!」

俺は叫んだが、気づいていないようだ。俺は彼女に追いつこうとペースを上げた。彼女が渡りだした時、交差点の信号が点滅し始めた

「ちっ・・これじゃ追いつけないな」

そう思い、俺がペースを落とした時の事だった

キキィーーッ…  ドンッ…

嫌な音がした。状況がわからないので、急いで近寄った



 そこには倒れているゆりとゆりのバックがあった。ゆりを引いたと思われる車は走り去った後だった。幸いにも、血は出ていない。俺はゆりを歩道まで寄せて、救急車を呼んだ



 医師にゆりの状態を聞いたところ、軽い脳震盪を起こしているだけで命に別状は無く、意識が戻り次第退院できるとの事だ。診察券が必要なので悪いと思いながらも、ゆりのバックの中を見た。中にはプレゼント(たぶん俺の)や財布やら色々入っていた。財布から診察券を取り出し、渡しに部屋を出た

 部屋に戻ると、ピンクの封筒が落ちていた。きっと財布を取り出した時に落ちたのだろうと思い、拾い上げた。封筒の表面には“省吾へ”と書いてあった。

俺はベッドに寝ているゆりの横で座りながら封筒を開き、中にある手紙を読んだ。俺は読み終えると、看護士に後を頼み、病院を出た。







同日午後8時ごろ



俺は待ち合わせ場所であるツリーの下のベンチに座っていた

何故あの時ゆりを置いて出たかというと、あの手紙には、ゆりが俺の事をどう思っているのか、今日をどれ程楽しみにしていたか等ゆりの想いが書いてあったからだ。

ゆりはデートを楽しみにしている。だからこそ、俺は待ち合わせ場所で彼女が来るまで待とうと思う。あいつの性格からして、気づいたらスグに来るはずだ。携帯があるっていうのに、走ってくるだろう。

だから俺は彼女が来るまで待ち続ける





同日午後10時半ごろ



 周りを見るとカップルで町は溢れていた。流石に寒くなってきた。ここに着いた頃は雪が降っていたのに、今は止み、月と星が輝いている。ゆりは未だ来ていない



 「省吾っ!!」

反射的に声がした方を見る。そこには、息を上げているゆりがいた

「よう。待ちくたびれたぞ」

俺は微笑み手を振った

「もしかして、5時からずっとここに?」

ゆりが言った。俺は軽くうなずき

「当然だろ。約束したんだから、5時間ずーっと待ちっぱなし。風邪引いたらお前のせいだからな」

と、笑いながら言った

「ごめんね。省吾・・・」

ゆりはそう言い、泣き出した。俺はどうしたらいいか分からなかった

「・・・ったく」

立ち上がる際に自然と声が漏れた。俺は彼女を引き寄せた。そして泣きながら、まだ何か言おうとしているゆりに無理やりキスをした。

「んっ・・」

ゆりの声が漏れた。しばらくした後、俺は顔を離し

「俺はゆりの事が好きだ。昔からそう思ってる ゆりはどうだ?」

と、ゆりに告白した。少し間が空いた後

「わ、、私も省吾の事が好き! 小さい頃からずっと・・ずっと大好き!!」

頬を朱色に染めてゆりが答えた。

「じゃあ、俺と付き合ってくれるか?」

すぐさま、俺は聞いた

「もちろん」

ゆりは涙を浮かべたまま。笑顔でOKしてくれた



 俺達はもう一度キスをした





 再び雪が降り始めた

空に浮かぶ月が、年に一度のクリスマスを祝福するかのように町を照らしている